糖尿病患者においては、心筋梗塞や脳卒中といった深刻な合併症である心血管疾患の発症リスクを低減させるため、以前から低用量アスピリン療法が推奨されていました。しかし近年では、その効果を疑問視する向きも強く、その位置づけが問題となっています。
10年にわたる日本人患者の追跡調査で効果なしと判明
これについて、奈良県立医科大学の斎藤能彦教授らの研究グループが、日本人糖尿病患者の心血管疾患予防法として、低用量アスピリン療法が有効か、10年にわたって追跡調査を行ったJPAD2研究の結果を、11月15日に米・ニューオリンズで開かれた米国心臓学会議において発表しました。
この研究内容は、16日付で奈良県立医科大学から公表されたほか、米科学誌の「Circulation」に現地時間の15日付で掲載されてもいます。
斎藤教授をはじめとする研究グループは、すでに2008年に「日本人2型糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患一次予防」に関する研究報告(JPAD研究)を実施、4.4年の観察期間で、低用量アスピリン療法による予防効果は認められなかったとの報告を提出しています。
同様の報告が英国の研究者らからもなされましたが、このJPAD研究には、観察期間中にあらかじめ想定された心血管疾患の発症が認められなかったことなど、一部問題点もあったことから、今回JPAD研究に参加した2,539人の日本人2型糖尿病患者を対象に、同研究終了後の8年間に及ぶ追跡調査をJPAD2研究として実施、より長期間の観察を行うことで、糖尿病患者における低用量アスピリン療法の心血管疾患予防効果を、より正確に検証することを目指しました。
追跡調査は2015年7月まで実施、心血管疾患の発症、出血性疾患の発症について調査を行いました。なお、JPAD研究終了後の低用量アスピリン療法の継続については、対象患者の各主治医判断に委ねたとしています。
消化管出血ではむしろリスクが増加
2015年7月の追跡調査時点で、観察期間は中央値10.3年となり、この期間中に低用量アスピリン療法を受けた群の270人が同療法を中断、非投与群では109人が新たに同療法を開始していました。そのため研究グループでは、低用量アスピリン療法の効果検証を実施するにあたり、これら低用量アスピリン療法割り付けから逸脱した患者を除外し、Per-protocol解析を行っています。
その結果心血管疾患の発症は、低用量アスピリン療法群で151人(15.2%)、非投与群の166人(14.2%)で確認され、両群での有意な差はなく、解析の結果、低用量アスピリン療法による心血管疾患の予防効果は認められないとの結論に至りました。
この結果は、年齢や性別、血糖コントロール状況、腎機能状態、喫煙習慣の有無、高血圧症、脂質異常症の合併といった要素で補正解析を行っても変わることなく、同様だったとされています。
一方、出血性疾患は、低用量アスピリン療法を中断する主たる原因になると考えられたことから、解析にあたり、元の割り付けに準じて全員を対象とするIntention-to-treat解析を行うこととしました。
すると、出血性疾患の発症は、低用量アスピリン療法群で6%、非投与群で5%に認められ、そのうち消化管出血では、低用量アスピリン療法群が25人で2%、非投与群では12人で0.9%と、低用量アスピリンを投与する方が、かえって出血リスク増大につながることが判明したそうです。
研究グループでは、今回の結果から、心血管疾患既往のない2型糖尿病の日本人患者では、低用量アスピリン療法を心血管疾患発症の予防目的で実施することは推奨されないと考えられるとしています。
しかし、この研究は日本人患者に限定したものであるため、結果が民族・人種の違いを超えて普遍的なものであるか否かは、現在進行中の国際研究における結果を待つ必要があるともしました。長年の論争に終止符が打たれることとなるのか、今後が注目されるところです。
(画像はプレスリリースより)

奈良県立医科大学 プレスリリース
http://www.naramed-u.ac.jp/Circulation : Low-Dose Aspirin for Primary Prevention of Cardiovascular Events in Patients with Type 2 Diabetes: 10-year Follow-up of a Randomized Controlled Trial
http://circ.ahajournals.org/