糖尿病の患者は、いまや世界に4億2,000万人以上といわれ、その約9割が2型糖尿病です。この2型糖尿病治療薬には、さまざまなものがありますが、なかでも最もよく処方されている経口薬がメトホルミンというものです。このメトホルミンは、筋肉や脂肪細胞への糖の取り込みを増加させつつ、肝臓での糖新生を減らすことで、血糖値を下げる働きをします。
線虫とショウジョウバエでメトホルミンの作用メカニズムを解明
このメトホルミンが影響を及ぼす生体内分子については、これまでにもいくつか報告がなされていますが、まだほかにも知られていない重要な作用標的分子があるとみられ、とくにメトホルミンが直接結合する分子は、発見されていませんでした。
今回、名古屋大学大学院理学研究科脳神経回路研究ユニットのユ・ヨンジェ特任准教授らの日米韓国際共同研究グループは、線虫とショウジョウバエを用いて、こうした直接標的分子の候補を探索、細胞内エンドソーム膜でNa+/H+交換輸送体(NHE)を発見するにいたりました。
この成果は、15日に名古屋大学から発表されたほか、8月26日付で米科学誌「The Journal of Biological Chemistry」に掲載されています。
研究チームはまず、メトホルミンが飢餓状態の線虫で生存期間を短くすることを発見、この現象について、遺伝子に突然変異を引き起こしていたさまざまな個体で調べたところ、エンドソームNHEタンパク質(nhx・5)を持たない変異体では、メトホルミンがほとんど影響しなくなることが分かりました。
ここからエンドソームNHEがメトホルミンの作用を受ける、新規標的分子であり、飢餓状態の線虫の生存に深く関与したことが示唆されました。そこで、さらにキイロショウジョウバエでも実験し、同様の現象が起こることを確認、進化上はるかに離れた存在である線虫とキイロショウジョウバエで、共通のメカニズムが見出されたことから、人を含む動物全体でエンドソームNHEが共通のメトホルミン作用標的となっている可能性が高いと考えられるとしています。
エンドソーム輸送やエンドソームNHEがポイント!新規治療薬の開発・研究進展に期待
今回の研究で、エンドソーム膜に存在するNHEが、メトホルミンの新規標的分子として同定されました。エンドソームとその細胞内輸送経路は、脂肪や炭水化物、コレステロール、タンパク質といったさまざまな物質を、細胞の内外、また細胞内小器官の間でやりとりする物質循環システムの役割をしています。
このエンドソームの物質輸送は、エンドソーム内のpHに依存することが判明しているため、これを制御するNHEは、結果として細胞内のさまざまな物質輸送速度や代謝速度を微調整することになります。
こうした知見と今回の研究成果から、2型糖尿病では、その原因のひとつとして、エンドソームによる物質輸送やそれに伴う物質代謝の不全が指摘でき、メトホルミンはエンドソームNHEの機能に影響を与えて、細胞内の物質輸送移動や代謝を調整、効果を発揮するという新たなメカニズムが考え出されています。
糖尿病とメトホルミンの作用、エンドソームの物質循環システムを結びつけた研究はこれまでに例がなく、新たな発見として注目されます。今後この発見は、メトホルミン作用のさらなる理解やより優れた2型糖尿病治療薬の開発につながることが期待されるでしょう。さらなる研究・開発の進展を待ちたいですね。
(画像はプレスリリースより)

名古屋大学 プレスリリース
http://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/20160915The Journal of Biological Chemistry : NHX-5, an Endosomal Na+/H+ Exchanger, Is Associated with Metformin Action
http://www.jbc.org/content/291/35/18591