糖尿病では、心血管系疾患の発現リスクが顕著に高まり、動脈硬化が進展、脳卒中などを起こしやすくなることが知られています。こうしたリスクを適切に管理していく観点から、スタチンなどの薬剤が用いられることがありますが、“ポストスタチン”として注目される薬剤にPCSK9阻害薬があります。
標的であるPCSK9に脂質恒常性維持以外の新機序が存在か
PCSK9阻害薬は、LDL受容体を分解するPCSK9を標的としてその働きを阻害することで、強力なLDLコレステロール低下作用とともに、抗動脈硬化作用を発揮します。しかしこのPCSK9には、脂質関連の恒常性の維持だけでなく、別の機序もあることが明らかになってきているようです。
欧州心臓病学会年次集会の発表をもとに、同学会がスペイン現地時間の8月27日に発表したところによると、イタリア・ミラノ大学Marina Camera氏らの研究グループが、健康な人や2型糖尿病患者、安定狭心症の患者を対象としたテストを通じ、PCSK9に血小板活性を調節する働きがある可能性が高いことを見出して、報告を行ったと伝えられています。
研究グループは、心血管系イベントに対するPCSK9の関与は、いまだ明らかになっていないコレステロールに非依存的な経路でもつながっていると認められる可能性が高いと見込み、血清中のPCSK9レベルが上昇すると、血小板の反応性に変化がみられるとの報告があることから、ここに着目した研究を行ったそうです。
血小板は、虚血性イベントを引き起こすことで、アテローム性動脈硬化症の急性血栓性合併症発現に大きく関与し、疾患の進行した状態では生命を脅かすものとなります。2型糖尿病や冠状動脈疾患を有する患者で、血小板活性化の増加が確認されるとの報告もすでになされています。
血小板産生を担う骨髄細胞に発現、活性化調整などに関与
これらを踏まえ、研究グループは健康な人や2型糖尿病患者、安定狭心症患者の血小板におけるPCSK9の発現や影響を調べることとし、多血小板血漿を用いたPCSK9の添加有無によるエピネフリン誘発血小板凝集能の変化や、血小板または巨核球におけるPCSK9の発現をフローサイトメトリーおよびウェスタンブロット分析によって評価しました。
測定対象となったのは、安定狭心症(糖尿病合併15例、無症状15例)の30例、2型糖尿病の10例(狭心症はなし)、健常者10例です。
分析の結果、まず、PCSK9はヒト巨核球、循環血小板の産生を担う骨髄細胞に発現し、巨核球から一部の血小板に直接PCSK9が移行するメカニズムが存在することが示唆されました。さらにPCSK9は血小板の活性化や凝集において何らかの役割を担い、影響を与えていること、2型糖尿病と安定狭心症を合併する患者の血小板では、いずれか一方の疾患患者、または健常者に比べ、2倍のPCSK9発現がみられることを突きとめました。
これらの結果から研究グループでは、PCSK9が血小板の活性化調整に深く関与することを示す新たな知見を得ることができたとし、心血管系疾患における血小板の影響を考慮すると、この発見は意義の大きなものと考えられるとしました。
そしてPCSK9阻害剤は、LDLコレステロール値を低下させるだけでなく、その薬理学的な阻害により、血小板の活性化を抑制、血栓の形成による各種疾患の発現に対しても、有意に保護的な働きをしている可能性があるとまとめています。
(画像は欧州心臓病学会ホームページより)

欧州心臓病学会 プレスリリース
https://www.escardio.org/