糖尿病は、膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンの作用が十分に機能せず、摂取したブドウ糖が有効に使われなくなって血液中のブドウ糖量、血糖値が病的に高くなっている状態のことをいいます。よって、この膵β細胞の働きとインスリンが重要な鍵を握っているのですが、今回、チューリッヒ工科大学の研究チームがヒトの腎臓細胞から人工の膵β細胞を作成することに成功、実際の膵β細胞と同様に機能することを確かめたと発表しました。
新たな遺伝子を導入して再プログラム化
ごくシンプルなアプローチをとることによって成功しており、今後、糖尿病根治に向けた画期的治療法となる可能性があります。この研究成果は「Science」に掲載されたほか、チューリッヒ工科大学から昨年の12月8日付で発表されました。
研究を行ったのは、同大学Martin Fussenegger教授らの研究チームで、彼らはヒトの腎臓細胞であるHEK細胞をベースに、HEK細胞膜の天然グルコース輸送タンパク質およびカリウムチャネルを利用して、血糖コントロールに関与するインスリンおよびGLP-1産生を司る遺伝子を新たに導入、再プログラム化を実施し、機能増強を図ることにより、人工の膵β細胞に備わっている機能をHEK細胞で再現しました。
シンプルアプローチかつ長期にわたる正常な機能発揮で注目
作成された人工の膵β細胞において、HEK細胞にもともと備わっているブドウ糖輸送タンパクは、血液中のブドウ糖を細胞内部へと取り込みます。
さらにこの細胞は、新たな遺伝子の導入とプログラミングによって、膵β細胞のもつ機能を獲得したことから、血糖値が適正なレベルを超えるとカリウムチャネルを閉じ、カルシウムチャネルを開いてカルシウムを放出、放出されたカルシウムが血糖を下げるインスリンやGLP-1の産生・分泌を促す一連のシグナル反応を導くようになりました。
糖尿病マウスを用いた実験で、この人工膵β細胞を移植すると、体内で効果的に機能し、インスリンが正常に分泌されるものとなって、3週間にわたり正常な血糖値を維持できるようになったことも確認されています。
1型糖尿病マウスでインスリン欠乏による持続性の高血糖を改善することが確認できたほか、2型糖尿病マウスでの内因性グルコース刺激によるインスリン放出、インスリン抵抗性の改善による良好な血糖コントロール維持が可能になったとされており、1型・2型の別を問わない糖尿病根治へ向けた道が開かれた点で画期的といえるでしょう。
この人工膵β細胞を作成するにあたり、研究チームは前もってコンピュータによる予測モデルを開発、実際に作成し、実験で確認されたデータと、予測モデルで推計算出したデータとはほぼ同じものとなったそうで、理論通りに機能させることができたと報告されています。
研究チームが今回開発・選択した手法は、もともと患者に備わっているHEK細胞を用いたものであり、安全かつごくシンプルな方法であるため、実用化に向けたハードルや医療費面での問題も最小限に抑えられると見込まれており、10年もすれば実際の治療に用いることができるようになる可能性があるとも説明されています。早期の実用化、臨床応用に期待したいですね。
(画像はプレスリリースより)

チューリッヒ工科大学 プレスリリース
https://www.ethz.ch/Science : β-cell–mimetic designer cells provide closed-loop glycemic control
http://science.sciencemag.org/content/354/6317/1296