脂質というと悪いイメージでとらえがちですが、肥満や糖尿病患者で血中における濃度上昇がみられるリン脂質分子の一種は、インスリン分泌を促進するグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)の分泌と深く関与しており、その働きを利用することで、糖尿病の新規治療法を開発できる可能性があることが分かりました。
東京大学らの研究グループが発見
この研究成果は、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻の原田一貴氏、准教授の坪井貴司氏らのグループによるもので、同大学から発表されたほか、「Journal of Biological Chemistry」オンライン版に5月22日付で掲載されています。
研究グループは、肥満や糖尿病の患者で血中濃度が上昇、その受容体であるGPR55が膵臓β細胞からのインスリン分泌と関与していることが分かっている脂質の一種、リゾフォスファチジルイノシトール(LPI)に着目、グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)との関連性を調べました。
LPIは、リン酸とグリセロール骨格に炭化水素鎖が結合したリン脂質のうち、炭化水素鎖が1本のみ結合した、リゾリン脂質の一種で、細胞の移動や開口分泌に関与しています。このLPIを感受するとされるGPR55は、膵臓β細胞においてインスリン分泌に関与することから、LPIやGPR55は体内における血糖値制御に重要な役割を担っている可能性が高いと考えられました。
しかし、インスリン分泌を促進したり神経系へ作用して食欲を抑制したりすることで知られる、小腸下部の小腸内分泌L細胞から分泌されるホルモン、GLP-1と、LPIやGPR55の関係性を明らかにした研究はこれまでになく、今回の発見が新規のものになります。
細胞が生きたままの観察でメカニズムを明らかに!
研究グループでは、まずマウス小腸内分泌L細胞の株GLUTag細胞にLPIを投与する実験を行い、細胞内でホルモン分泌の引き金となるカルシウムイオン濃度が上昇、GLP-1分泌量が増加することを見出しました。GLP-1の分泌増強効果は、マウスから採取した小腸組織でも確認されています。
またGLUTag細胞において、GPR55が発現していることが観察されたため、GPR55の阻害や、対象のメッセンジャーRNA配列に相補的な二本鎖RNAを細胞に導入、遺伝子発現を抑制するRNA干渉法を用いるなどして、発現抑制を行ったところ、LPI投与に伴うカルシウムイオン濃度の上昇が、部分的に抑えられることが分かりました。
さらに、イオンチャネルの一種であるtransient receptor potential cation channel subfamily V member 2(TRPV2)チャネルを阻害、または発現抑制すると、LPI投与に伴うカルシウムイオン濃度の上昇とGLP-1分泌の抑制が起こることが判明しました。
そこでこのTRPV2の動態をより詳細に調べるべく、TRPV2に蛍光タンパク質のGFPを融合させ、GLUTag細胞へと導入、生きたまま細胞膜近傍の蛍光のみを検出・観察できる全反射蛍光顕微鏡を用いて観察したところ、LPIを投与することで細胞膜の蛍光強度がアップ、TRPV2が細胞膜へと移行しているとみられる状態が確認できたのだそうです。またこの反応は、GPR55を阻害すると、部分的に抑制されることも分かりました。
これらの結果から研究グループは、LPIが小腸内分泌L細胞からのGLP-1分泌を促進させることが示唆されたと結論づけ、GLP-1がインスリン分泌の促進や食欲抑制などの作用をもつため、研究を通じて明らかになったLPIやGPR55、GLP-1分泌の関連性に関する知見から、糖尿病の新規治療法が開発できる可能性があるとしています。
GLP-1は、糖尿病の新薬における標的候補として注目されているものですから、今後さらにこの分泌メカニズムの詳細な解明が進むことで、より新たなアプローチによる糖尿病治療の実現性が高まるでしょう。
(画像はプレスリリースより)

東京大学 プレスリリース
http://www.c.u-tokyo.ac.jp/Journal of Biological Chemistry : Lysophosphatidylinositol-induced activation of the cation channel TRPV2 triggers glucagon-like peptide-1 secretion in enteroendocrine L cells
http://www.jbc.org/