治療法の確立されていない希少疾患のひとつにミトコンドリア病と呼ばれるものがあります。このミトコンドリア病の病態を改善する効果をもった世界初の化合物が、このほど日本の研究者らによって見出されました。ミトコンドリアの機能異常は糖尿病の疾患原因ともなるものであり、糖尿病への治療応用も期待される発見です。
ATP産生の活性化メカニズムも解明
この研究は、東北大学大学院医学系研究科および大学院医工学研究科病態液性制御学分野の阿部高明教授、松橋徹郎研究員(兼東北大学病院小児科)、自治医科大学小児科の小坂仁教授、筑波大学の中田和人教授、岡山理科大学の林謙一郎教授らのグループによって行われたもので、その成果が6月1日付で東北大学から発表されたほか、「EBioMedicine」に5月13日付で掲載されています。
ミトコンドリアは、全有核細胞に存在し、生命活動に必要なエネルギーであるATPの約95%を作り出しています。このミトコンドリアに機能異常を生じるミトコンドリア病患者では、ATP産生の低下に伴う全身性の臓器障害が発生し、代謝異常、中枢神経症状、筋症状、難聴、心疾患系症状、腎機能・肝機能異常などさまざまな病態が現れます。発症頻度は約5,000人に1人とされますが、有効な治療法はいまだ確立されていません。
研究グループでは、すでに慢性腎臓病患者の血液中に、ATPや造血因子の産生促進作用をもつ、ある種のインドール化合物が存在することを発見し、その誘導体のうち、最も高いATP合成能をもつ新規化合物を人工的に合成、「Mitochonic acid 5(MA-5)」と名付けて報告していました。
阿部教授の研究グループでは、このMA-5がミトコンドリア病患者の皮膚から培養した細胞の生存率を上昇させることも確認、報告しているほか、MA-5をミトコンドリア機能異常症マウスに投与すると、心臓や腎臓の機能異常が改善し、マウスの生存率がアップすることも明らかにしています。
しかし、MA-5がミトコンドリアにおいてATP産生を活性化するメカニズムは不明のままとなっていたことから、今回その解明を試みたそうです。
糖尿病を含む多様な生活習慣病治療薬への応用が可能か
その結果研究グループは、MA-5が、ミトコンドリアの内膜にある、クリステと呼ばれる折りたたみ構造部分を維持するために重要なタンパク質のミトフィリンに結合し、ATPを合成する酵素の複合体形成を促進させることで、ATP産生の効率を高めていることを突きとめました。
またミトコンドリア病の25症例を対象に、患者由来のさまざまな皮膚線維芽細胞を用い、MA-5の細胞保護効果を調べたところ、1症例を除く24症例(96.6%)という高い割合で、有意な細胞保護効果を確認することができたそうです。その効果は濃度依存的で、細胞生存率やLDH値の改善などが認められています。
ミトコンドリアの機能異常は、エネルギーの産生・代謝に直接関わるなど糖尿病とのつながりも深く、その疾患発現原因となることがすでに明らかとなっています。また筋萎縮性側索硬化症やパーキンソン病、アルツハイマー病などを含む神経変性疾患、心臓病、腎臓病、アテローム性動脈硬化、眼科疾患といった多様な生活習慣病などの原因にもなるとされており、MA-5はこれら疾患の治療にも寄与する画期的な薬剤となる可能性があると考えられます。
MA-5は、日本が生んだ世界初の新規化合物として、すでに国内外の特許申請を完了しており、現在はAMED難治性疾患実用化研究事業の支援のもと、2018年のヒト投与試験に向け、安全性確認を進めている段階にあるそうです。今後の研究・開発進展が期待されるところでしょう。
(画像はプレスリリースより)

東北大学/自治医科大学/岡山理科大学/筑波大学 プレスリリース
https://www.tohoku.ac.jp/EBioMedicine : Mitochonic Acid 5 (MA-5) Facilitates ATP Synthase Oligomerization and Cell Survival in Various Mitochondrial Diseases
http://www.sciencedirect.com/