糖尿病の薬物治療における研究・開発は活発に行われており、さまざまな新薬も登場してきています。生まれてくる薬の特徴やアプローチの仕方はさまざまで、それぞれに特徴がありますから、それを踏まえた最適なものが選択され、個々の患者により合った薬剤を用いる個別化医療が実現されていくことが望ましいといえるでしょう。
動脈硬化抑制の観点からは高額なDPP-4阻害薬でなくてもOK?
そうした個別化医療、薬剤選択の最適化を考えていくうえで、注目すべき研究成果が、佐賀大学医学部の野出孝一教授らの研究チームによってまとめられました。詳細内容を記した論文は、国際医学誌「PLOS Medicine」にも掲載されています。
DPP-4阻害薬と呼ばれるタイプの経口薬は、インスリン分泌に大きく寄与するインクレチンというホルモンがあるのですが、これを分解する働きをもった酵素DPP-4(ジペプチジルペプチターゼ-4)を選択的に阻害することで、インクレチンの分解を抑制し、インスリン分泌を促進、高血糖状態を改善する、比較的新しいタイプの薬剤です。
糖尿病治療薬のなかでも、副作用で問題となる低血糖が出にくい薬剤として開発され、また細胞の老化や血管の炎症を引き起こす酸化ストレスを抑制できるとして、主要な合併症の心血管系疾患のひとつ、動脈硬化を防ぐことができるともされてきました。そのため、近年では多くの患者さんに処方される薬剤となっています。
しかし、野出教授らの研究によると、動脈硬化の抑制という点では、DPP-4阻害薬に特別な優位性はなく、それよりも安価な薬でもよいと考えられるとされています。
糖尿病網膜症や神経障害への優位性、低血糖発生リスク低減では確かなメリット
研究には、大学病院など全国約60施設の研究者150人が参加し、30歳以上の2型糖尿病患者463人を対象として、多施設前向き、無作為化、非盲検、盲検化エンドポイント設計による方法で検証が行われました。
最終的に参加者となった442人は、DPP-4阻害薬のひとつ「シタグリプチン」を投与する群222人と、別のタイプの従来薬による投与治療の群の220人とにランダムで割り付けられ、どのような違いがみられるのか、2014年6月まで2年間観察、データを収集したとされています。
動脈硬化については、頸動脈をエコーで調べ、原因となる動脈硬化巣の厚さを測定しました。すると、いずれのグループでも投薬しない場合に比べて動脈硬化巣は薄くなっており、一定の抑制効果が認められましたが、有意な群間差は確認できず、DPP-4阻害薬のシタグリプチンに特別な優位性があるとはいえないとの結果になりました。
その一方で、心血管系疾患以外の主要な合併症として知られている糖尿病網膜症や、神経障害を抑制するという観点では、DPP-4阻害薬に優位性があることが確認されています。また、当初の開発目的に沿い、やはり副作用としての低血糖を生じるリスクは、DPP-4阻害薬を用いることで、大幅に低減できることも分かりました。
このようにDPP-4阻害薬には良い点も多いのですが、デメリットとして、他の治療薬と比べ、高価な薬剤であるということがあります。よって野出教授らは、DPP-4阻害薬を良薬であると認めつつも、動脈硬化の抑制に重点を置きたいケースでは別の薬剤による治療でもよいとして、医療費の削減、患者の負担軽減を図ることも考えるべきと結論づけています。
(画像はイメージです)

PLOS Medicine : The Effect of Sitagliptin on Carotid Artery Atherosclerosis in Type 2 Diabetes : The PROLOGUE Randomized Controlled Trial
http://journals.plos.org/plosmedicine/article.1002051