糖尿病や動脈硬化の予防・改善において、高い注目を集めているホルモンに、アディポネクチンというものがあります。このアディポネクチンは、脂肪細胞から分泌される善玉ホルモンで、エネルギー代謝に深く関与しているほか、インスリン感受性を上げる作用、脂肪燃焼作用などがあるとされており、糖尿病領域はもちろん、メタボリックシンドローム・肥満症の観点からも、その効果が期待されているのです。
食欲亢進・抑制作用が血糖値の高低で切り替わる!
しかしこのアディポネクチンには、脳への作用として、食欲を増進させるという報告と、抑制させるという報告の、全く相反する両方があり、この矛盾点が長年謎とされてきていました。
今回、この矛盾を解決する世界初の発見が、自治医科大学医学部統合生理学部門の矢田俊彦教授と須山成朝助教、東京大学大学院医学系研究科糖尿病・代謝内科の門脇孝教授、窪田直人博士らによってなされ、広く関心を集めています。なおこの研究成果は、8月9日に英国の学術雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
それによると、アディポネクチンの食欲に対する作用は、血糖値(グルコース濃度)の高低によって、亢進か抑制かが切り替わる仕組みになっているのだそうです。
詳細な働きの解明で新たな治療法としてもさらに注目される存在に
研究チームは、まず低グルコース濃度下でのアディポネクチンを観察し、視床下部弓状核の摂食抑制性プロオピオメラノコルチン(POMC)ニューロンを活性化させていることを確認しました。これに対応して、空腹な低血糖状態のところでアディポネクチンを脳室内に投与すると、摂食量が減少したため、アディポネクチンはこのとき、低血糖時の過剰な食欲を弱める働きをしていると推定されます。
一方、高グルコース濃度下では、アディポネクチンは逆にPOMCニューロンを抑制させていました。グルコースと同時に投与したアディポネクチンが、摂食量の増加につながったことも、これに対応する結果として確認されています。よってこのとき、アディポネクチンは、過剰な満腹感を弱めて摂食が可能な際に効率よくエネルギーを取り込むための働きをし、動物本来の生存戦略に沿う作用を引き起こしていると推定されました。
研究チームでは、これらは血糖値の高低に依存したホルモン作用の極性転換、正反対な働きの切り替えというダイナミックな生体制御原理の発見であるとみています。
さらに研究チームは、阻害剤を用いた実験から、アディポネクチンのPOMCニューロン活性化、および抑制作用の仲介を行う細胞内シグナル伝達系として、それぞれPI3キナーゼとAMP依存的キナーゼの同定にも成功しており、この作用切り替えにおける分子メカニズムも明らかにしました。
これらの結果は、血糖値高低に依存するホルモン作用の詳細メカニズムとして、糖尿病における有益な知見をもたらしたことはもちろん、その発症リスクを大幅に高める肥満の新規治療法開発基盤として活かされることが期待されます。
ほかに過食症や拒食症といった摂食障害の治療法としても有効である可能性があるとみられ、将来、食生活の改善が必要ながら、うまくいきにくい、効果的な食事療法の実践に悩みをもつさまざまな患者を救うものとなるかもしれません。

自治医科大学 発表資料
http://www.jichi.ac.jp/news/research/20160810Scientific Reports : Glucose level determines excitatory or inhibitory effects of adiponectin on arcuate POMC neuron activity and feeding
http://www.nature.com/articles/srep30796